築35年RCマンションにおける漏水事故の調査・対応プロセス

先日、当社が管理を受託している区分マンションにて、突如として漏水事故の連絡が舞い込みました。
入居者様から「クローゼットを開けると変な臭気が漂い、見上げると天井に不気味な水染みが広がっている」というものでした。
漏水は一刻を争う事態であり、放置すれば被害が急拡大する恐れがあります。
しかし、入居者様はあいにく立ち会いが難しい状況でした。
そこで当社は事態の緊急性を重く鑑み、借主様から承諾を得た上で、担当者が現地へ急行し緊急立会いを実施しました。

当該物件は1991年5月に新築された築35年を迎えるRC造(鉄筋コンクリート造)の地上11階建マンションです。
2023年に室内をフルリフォーム済みの状態で購入された物件であり、目に見える内装は非常に真新しい状態でした。
まずは現場の構造を把握するため配管図面を確認したところ、玄関のすぐ隣に設置された給湯器から伸びる「給湯管」が、洋室の床下を経由し
問題のクローゼット付近で「キッチン方面」と「浴室方面」の二手に分岐している構造であることが判明しました。
この図面確認が、その後の原因究明の大きな足掛かりとなります。

1.原因を論理的に絞り込む:プロの漏水調査と水圧テスト

現場に到着した専門の調査会社と共に、原因特定のため調査を実施しました。
漏水調査にあたっては①給水管 ②給湯管 ③排水管の順番で調査するとの事でした。

今回のケースにあたって対象住戸の漏水は、対象住戸の入居者様が就寝している時間帯、つまり「水を一切使用していない状態」で発生していたことが推測されました。
そのため、給水、給湯での漏水と推測したそうです。

給水管・給湯管の特性: 蛇口を閉めていても管の内部には常に一定の水圧が掛かっているため、配管に損傷があれば、水の利用有無に関わらず常時漏水が発生。
排水管の特性: トイレや風呂などで水を利用して排水を流した時のみ漏水が発生し、水を使っていない未利用時には漏水がピタリと収まる。

この物理的な特性から、今回は「給水」または「給湯」のいずれかから水が漏れ出ている可能性が極めて高いと判断されました。

推測を確信に変えるため、配管内に規定の圧力をかけて異常を検知する「水圧テスト」を実施します。
キッチン、浴室、洗面台などすべての水回りの元栓をしっかりと締め、パイプスペース(PS)部分から特殊な機材で圧力をかけました。
その結果、①の給水管の圧力は正常値を保ち問題なし。
しかし、②の給湯管部分で明確な「圧力の低下」が確認され、漏水元が給湯管であることがわかりました。

2.階下住人への心理的ケアと、立ちはだかる「点検口がない」壁

原因が「給湯管」であると特定できたことは、調査における大きな前進であると同時に、被害に遭われた階下の入居者様へ安心をお届けする重要な材料となりました。
当初、階下の方は変な臭気を感じていたことから、「上階のトイレなどの汚水が漏れてきているのではないか」という強い不安と嫌悪感を抱かれていました。
そこで、漏れているのは生活排水や汚水ではなく、綺麗な水(お湯)が通る給湯管からの漏れであることを丁寧にご説明しました。
この報告により、階下の方は目に見えてホッとされたご様子でした。
調査会社の作業をスムーズに進めるためにも、階下の方との良好な関係性構築と、細やかなフォローアップは欠かせないプロセスです。

しかし、現場の調査はここからが正念場でした。
給湯管から漏れていることは分かりましたが、「具体的に配管のどこから漏れているのか」というピンポイントの箇所特定が必要です。
図面からクローゼット下の分岐点付近が怪しいと予想されたものの、築古物件特有の厄介な問題が立ちはだかります。
床下を確認するための「点検口」が存在しないのです。

むやみに床を壊すわけにはいかないため、まずは給湯管のあるホースを辿り、キッチン下から小型カメラ(スコープ)を挿入して床下を探索しました。
しかし、異常は発見できません。
続いて洗面・浴室側を探りますが、こちらも点検口がありません。

やむを得ず洗濯機の防水パンを取り外し、排水の隙間からスコープを這わせましたが、ここでも漏水箇所は見つかりませんでした
ただし、この過程で浴室周辺の配管はリフォーム時に新しいものへ交換されている形跡が確認できたため、漏水箇所は「給湯器から分岐点までの間」か「分岐点から浴室までの間」の未交換部分であるとさらに範囲を絞り込むことができました。

3.姿を現した元凶と復旧工事:経年劣化による「銅管のピンホール」

あらゆる箇所からのスコープ調査を試みたものの決定打に欠け、いよいよ最終手段に出ざるを得なくなりました。
それは、最も疑わしいクローゼットの床下に、自らの手で物理的な「点検口」を新設することです。
クローゼット内の床は洋室の床面よりも一段高く造作されており、調査員は電動のこぎりを用いて慎重に床板を切り抜き、開口部を作成しました。

暗い床下にライトを照らし、ようやく見つけ出した漏水の元凶――それは、古い「銅管」からの漏水でした。
築年数の経過したマンションの給湯管には、熱に強い銅管が頻繁に使用されています。
しかし、長年の水流による内側からの摩擦負荷や、お湯が通る際の熱膨張と収縮の繰り返しによって金属疲労が蓄積し、やがて管の表面に「ピンホール」と呼ばれる針で突いたような微小な穴や亀裂が生じます。
今回の事故も、まさにこの経年劣化が引き起こした典型的なトラブルでした。

原因さえ特定できれば、プロの仕事は迅速です。
漏水を引き起こしていた部分の劣化した銅管を専用の工具で切り落とし、耐久性の高い新しい配管材としっかりと接合して、無事に交換および復旧工事が完了しました。

4.この事例から学ぶ賃貸管理の教訓:事前確認・初動のスピード・保険の備え

今回の一連の漏水調査から復旧工事までを最前線で立ち会ったことで、築古物件の管理における数多くの気づきと学びを得ることができました。
これらは、今後の賃貸管理をより強固なものにするための重要な教訓となります。

【建物購入時の見極めと履歴確認】
調査の過程で、実はこの建物内で過去に同様の銅管漏水がすでに3件も発生しており、今回が4例目であることが判明しました。
建物を購入・運用するにあたっては、見た目の美しさだけでなく、「過去に銅管での漏水実績があるか」という見えない履歴を事前にリサーチすることが不可欠です。
また、リノベーション物件であっても、表層だけでなく「床下の隠蔽配管をどこまで新品に交換しているか」を詳細に確認する必要があります。

【被害を最小限に食い止めるスピード対応】
入居者様に代わって緊急立会いを行いましたが、給水・給湯トラブルの場合は初動のスピードが命です。
業者の到着を待つ間であっても、「ひとまず水道の元栓(止水栓)を締める」という簡単な応急処置さえできれば、被害の拡大を劇的に抑えられることを身をもって実感しました

【不安を取り除く「報告頻度」の重要性】
今回は、漏水調査の仕組み、中間結果の報告、応急処置の内容、改善のめど、そして復旧の完了まで、階下の方へ事あるごとに状況説明を行いました。
この「説明頻度の高さ」が、階下の方の心理的負担を大きく軽減し、調査に伴う騒音へのご理解にも繋がりました。
正確な情報を関係者へ広くスピーディーに共有することで、全員が同じ方向を向いてトラブル解決に取り組むことができます。

【築古物件における火災保険の見直しと備え】
「形あるものはいつか壊れる」と言われるように、築古物件における配管の経年劣化による漏水は、地震などの自然災害と同様に「いつか必ず発生するもの」として想定しておくべきリスクです。
トラブルが発生してから慌てるのではなく、事前に火災保険の補償内容(水濡れ原因調査費用や個人賠償責任保険など)が十分であるかを見直しておくことが、最強の防御策となります。

当社におきましても、今回の貴重な実例と知見を社内で共有し、管理をお任せいただいているオーナー様へ向けた築古物件の保険内容の見直し提案など、リスクを未然に防ぐための積極的な働きかけを推進して参ります。