変化の時代に対応していく適応能力をつける ミニマムタックス税制

税負担の公平性の観点から、超富裕層の所得に対する負担の適正化のための処置として、ミニマムタックス税制が2025年から実施されています。

国内格差が広がっていることもあり、うまく再分配できれば経済が活性化していく可能性もありますが、超富裕層の資産の国外逃避も起きる可能性があります。

さらに、かつて1950年代に富裕税というものがありましたが、税収よりも課税コストがかかるなどの要因により廃止されています。

制度としてはそれから実に70年越しでの復活です。

制度の概要と背景を紹介し、国内の富裕層が今後どういう動きをしていくのかも考えていきたいと思います。

1:ミニマムタックス税制とは

ミニマムタックスは個人所得税に対する処置であり、一言でいえば「年収30億円以上ある超富裕層に対する追加課税制度」です。
対象者は、株式の譲渡所得や土地建物の譲渡所得と給与・事業所得、その他の各種所得を合算した年間の合計所得金額が約30億を超える納税者とされています。

(合計所得金額ー3.3億円)×22.5%が通常の所得税額を上回った場合に追加徴税される仕組みです。

課税対象者は200人台にのぼり、税収は300~600億円程度になるとみられています。

2:ミニマムタックス税制導入の背景

現行の制度では富裕層が優遇されているという不公平感が国内にあることは否めません。

日本の総合課税となる給与所得や事業所得に課される所得税は7段階の累進課税制がとられており、最高税率は4000万円以上で45%です。住民税の10%も含めると55%になります。

それに対し、株式譲渡益や配当金などの金融所得は総合課税、申告分離課税、申告不要から納税者が申告可能です。

この中で申告分離課税を選択した場合、所得税率は一律で15.315%(復興特別所得税0.315%を含む)+住民税5%で20.315%と税率が低くなっています。

総合課税は累進課税制度によって所得が高い人ほど高い税率で課税される仕組みです。
ですが、高額所得の富裕層は課税率が一律20.315%の金融資産が多くあり、合計所得金額が一定額を超えると所得税負担率が逆に下がっていきます。

「1億円の壁」といわれるものです。
こうした富裕層の税負担の不公平性を是正するためにミニマムタックス税制は導入されました。

3:統計からみる実状 金融資産の動き

実際の統計を見ると年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる「1億円の壁」問題がより分かりやすいと思います。

2022年分の申告納税者の所得でみると、所得が5000万円超~1億円以下の層の税負担率は26.3%にもなるのに対し、そこから切り返すように下がっていき、所得が100億円を超える層では17.2%にまで下がるようです。

このことからも、総合課税による所得税がいかにもったいないかが分かります。
当然、資産がある人は株や不動産譲渡所得などの分離課税となる金融資産へシフトしていくことになるでしょう。

4:変化の時代

所得税だけでなく相続税や社会保険料など日本は何かと重税国です。

10年前の富裕層は中小企業のオーナー社長や医者、土地持ちの地主など土着的な物でした。
しかし、近年の富裕層は上場企業役員やインフルエンサーなど時間や場所にとらわれない方が多くなっています。
こういった方たちにとって住民票を日本にこだわる必要はなくなってきており、税率の低い国へ移動していく層も増えてきています。

そうなると税収が上がっても国力が低下していき本末転倒です。

賢い人たちは国がいろいろと施策を打っても対策していくため本質的な改善には至っていない状況です。

今回の施策に対しても超富裕層から一定数国外へ行くと決断する層も増えるだろうと予想されます。
国内の富裕層が何を考え、今後どういう動きをするのかも見立てた上で先手を打っていく必要があると考えます。