令和5年宅地建物取引士資格試験が実施されました
毎年恒例の宅地建物取引士資格試験が、令和5年10月15日に実施されました。
今年度の受験申込者数は、試験実施直後の速報値で28万9,096人(前年比1.8%増)、合格ラインは速報値で50点満点中37点となっています。
宅建士試験の受験者数は、平成25~28年度は10万人台でしたが、平成29年から20万人を超え、年々受験者数が増加している人気の資格となりました。そのため以前は35点を下回ることも珍しくなかった合格ラインも、近年では35点が最低目標となっており、難易度の高い試験になっている印象を持ちます。
試験合格ラインの点数が上昇している背景には、学習ツールやコンテンツが増えてきたことが挙げられます。
以前まで宅建士試験の学習方法と言えば、書店で購入した分厚い参考書での独学か、資格学校のカリキュラムを受講するしかありませんでした。
しかし近年ではスマートフォンの一問一答アプリを活用して、通勤通学の合間に学習する姿も多く見られるようになりました。さらに教育系Youtuberの中には、宅建士試験対策に特化した動画を更新している配信者も多く、試験前日の『不動産大学』の再生数は50万回を超えるほどになっています。
学校や仕事をしながらでも、隙間時間を上手に活用して学習できる環境が整ったことで、以前よりも効率的かつ確実に宅建の知識を身に着けられるようになりました。
合格点数上昇に対する機構側の対策
しかし一方で、宅建士試験を運営する『一般財団法人不動産適正取引推進機構』も、合格ライン上昇への対策をおこなっています。
宅建士試験は全50問で構成されており、試験時間120分の間に「権利関係(問1~14)」「法令上の制限(問15~22)」「税その他(問23~25)」「宅建業法(問26~45)」「5問免除(問46~50)」を解かなければなりません。1問に対してかけられる時間は2分程度です。
宅建士試験では、問1から解いていくのが一般的なほかの資格試験とは異なり、出題範囲の中でも比較点数を取りやすい「宅建業法(問26~45)」から解き始めることをすすめる参考書が多くあります。これは解きやすい問題から着手して、試験開始直後の緊張感を緩和することが目的で、試験対策の情報を得やすい昨今においては、この受験者側の対策の結果が「合格ラインの上昇」という形で如実に表れていたのです。
ですが今年は、この状況に対して機構側も対策をおこなってきた印象があります。
多くの受験生が初めに着手したであろう、問26の設問がこちらです。
ほとんどの問題が過去問から出題されると言われている宅建士試験ですが、今年出題された問26に関しては、過去の宅建士試験で出題されたことのないタイプの問題でした。
不動産関係者にもまだ浸透していない「37条書面の電磁的方法による提供」が題材で、さらに「正しいものはどれか」ではなく「正しいものはいくつあるか」という問いかけも、過去問だけで勉強してきた受験生を悩ませました。
ちなみにこちらの設問の正解は「3個」。「第37条書面を電磁的方法によって提供する場合であっても、宅地建物取引士の明示が必要である」という理由から、選択肢【イ】が誤りです。
試験対策として問26から解き始めた受験生にとって、試験直後から未知の問題に直面した衝撃は相当なものだったのではないでしょうか。
電磁的方法での提供に関する問題は、問35のクーリング・オフに関する問題にも選択肢として登場しました。
こちらの設問の正解は【4】。「宅地建物取引業者の事務所で申し込みをおこなった場合は、クーリング・オフが適用されない」という選択肢自体は比較的簡単なため、正解した受験者も多いと思われます。しかし選択肢【2】に電磁的方法で提供された場合についての記載があることによって、クーリング・オフの制度に対して電磁的方法での提供が適用されるかどうかを知らず、混乱した受験生もいたのではないかと考えられます。
例に挙げた問26と問35のいずれにおいても、電子契約が不動産業界全体に浸透していない状況下においては、不動産業界での実務経験があっても判断しづらい問題でした。
宅建士試験の合格のためには勉強方法の見直しが重要
宅建士試験は複雑な法律が絡み合っていたり、こまめな制度改正があったりと、単なる暗記だけでは合格できない試験です。最終的には「いかに制度について理解し納得できているか」という点が合否を左右するため、不動産業界に携わっていることは試験合格にもプラスに働きます。
宅建士試験自体は、合格者が全受験者の15~18%になるように設定されているため、今年も全受験者約29万人のうち、23万人は不合格という結果に終わった計算になります。しかし不動産業界で仕事をするうえでは、法令を遵守しながら業務をおこない、お客様からの信頼を獲得するためにも、宅地建物取引士の資格は必要不可欠なものです。
今年不合格となってしまった受験者の方は、ご自身の勉強方法や勉強時間などをしっかりと見直し、来年こそは合格できるように再スタートを切りましょう。