昨今、特にRC(鉄筋コンクリート)壁式の新築一棟収益マンション投資において、施工会社の倒産が深刻な問題として顕在化しています。業界データによると、建設業の倒産件数は2024年に過去10年で最多となる1,890件に達し、前年比で10%以上も増加しました。
この背景には、資材価格の高騰と慢性的な人手不足があり、特に経営体力の乏しい小規模事業者を直撃しています。
さらに、建設業界の「10年生存率は約6.3%」という厳しいデータは、創業からわずか10年で9割以上の会社が廃業・倒産に追い込まれている現実を示しています。これは、アパートやマンションの建築を依頼する施主にとって、工事の途中で施工会社が倒産するという事態が、決して稀なケースではなく、常に想定すべきリスクであることを意味します。
万が一、その当事者となってしまった場合、どのように対応し、何を注意すべきなのでしょうか。
施工会社が倒産した瞬間、施主は複数の深刻な問題に直面します。
1. 後継会社探しの困難さと「負の連鎖」のリスク
まず、中断した工事を引き継いでくれる後継会社を見つけることは、一般的に極めて困難です。なぜなら、他社が途中まで手掛けた工事を引き受けることは、後継会社にとって計り知れないリスクを伴うからです。
施工品質の不明確さ、隠れた瑕疵(かし)の存在、責任範囲の曖昧さなど、問題が噴出した際に誰が責任を負うのかが不明瞭になるため、健全な経営をしている会社ほど敬遠する傾向にあります。
運よく引き受けてくれる会社が見つかったとしても、多くの場合、リスク分を上乗せした高額な工事費を提示されるか、あるいは「相当仕事に困っているようなところ」、つまり経営状態が芳しくない会社である可能性が高まります。
そうなると、新たな施工不良や、最悪の場合、その会社まで倒産してしまうという「負の連鎖」に陥る危険性も否定できません。実際に、一つの物件の完成までに3社連続で施工会社が倒産したという方もいらっしゃいました。
2. 最善策としての「下請け業者」と「二重払い」の罠
このような状況で最も現実的かつスムーズな解決策は、倒産した元請け会社の下で実際に工事を行っていた下請け業者へ直接、工事の継続を依頼することです。
彼らは建物の工事状況を最もよく理解しているため、話が早く、工事の再開も円滑に進む可能性が高いでしょう。
しかし、ここには大きな金銭的な落とし穴が潜んでいます。元請け会社に契約通り工事代金を支払っていても、そのお金が下請け業者に正しく渡っているとは限りません。
元請け会社が資金繰りのために下請けへの支払いを滞納しているケースは非常に多く、その場合、下請け業者は未払い分の代金を施主に直接請求してくることがあります。
施主からすれば、すでに支払ったはずの工事費を、下請け業者にもう一度支払わなければならない「二重払い」の状態に陥ってしまうのです。これは法的に下請け業者が保護されるケースも多く、非常に痛い追加出費となります。
3. 瑕疵担保保険の継承手続き
並行して、住宅瑕疵担保履行法に基づく「瑕疵担保保険」をスムーズに継承できるかの確認も重要です。この手続きが滞ると、万が一建物完成後に雨漏りなどの瑕疵が見つかっても保険が適用されず、莫大な修繕費を自己負担することになります。
倒産後は、裁判所から選任された「破産管財人」に橋渡しをしてもらい、保険法人との手続きを進めるのが一般的です。迅速な行動が求められます。
工事中の建物は、原則として完成・引き渡しが完了するまで、その所有権は代金を受け取っている施工会社にあります。そのため、引き渡し前に倒産されると、施主は「自分の建物」であると法的に主張し、所有権を確保する手続きが必要になります。
この所有権の帰属は、最終的に破産管財人によって、施主が「それまでの工事代金をどの程度支払っているか」と、「工事がどの程度完成しているか(出来高)」を照らし合わせて総合的に判断されます。
つまり、支払い状況と工事の進捗を証明する客観的な資料が、交渉の生命線となるのです。
そして、何よりも最優先すべき事項は、建築確認手続きを法的に正しく引き継ぎ、適法な建物を完成させられるか否かです。工事施工者が変わるため、役所への変更届などの手続きが必須となります。これを怠れば、建物は違法建築物となり、資産価値は逓減してしまいます。
このような最悪の事態を回避するためには、契約前の段階で施主自身が防衛策を講じることが不可欠です。
• トラブル回避ポイント①:出来高以上の支払いを断固拒否する
「来月の着工準備のために」「資材を安く仕入れられるから」といった理由で、工事の進捗度を上回る前払いを求めてくる施工会社には、最大限の警戒が必要です。
そのような提案をしてくること自体、その会社がすでに資金繰りに窮している危険な兆候です。契約時の支払い条件を細かく設定し、「出来高以上に早く、必要以上な金額を支払わない」という原則を徹底してください。
• トラブル回避ポイント②:数字で経営実態を把握する
感覚や評判に頼らず、客観的なデータで経営状態を確認しましょう。必ず決算書の提出を求め、「売上に応じた利益がしっかりとれているのか」を精査します。
さらに、「東京商工リサーチ」や「帝国データバンク」といった信用調査会社を利用し、専門的な視点からの評価を確認するといのも一つの手段です。
• トラブル回避ポイント③:会社のキャパシティを見極める
会社の規模(実績やスタッフ数)に対して、現在抱えている工事数が多すぎないかを確認することも経営状態を判断するヒントになります。
ヒアリングベースでも構いませんので、「今、何件くらいの現場が動いているのか」を把握しましょう。特に注意すべきは、SNSや口コミで急に受注を増やした施工会社です。
「急に受注が増える施工会社さんほど飛びやすい」のです。これは、資金繰りや人員確保(人工)が急激な成長に追いつかず、会社の「基礎体力以上の仕事」を受けることで、現場管理が杜撰になり、結果的に経営を圧迫するためです。
昨今、「周りの人が利用しているから大丈夫だろう」と安易に発注してしまう投資家さんが増えている印象です。しかし、「皆が使っているから」という理由は、何の保証にもなりません。
大切な資産を守るため、自らの目で厳しく見極め、慎重に判断することが何よりも重要になります。