引渡し前の死亡事故、収益物件の売買契約後トラブル

先日、収益物件の売買契約後に入居者の死亡が発覚するという悲惨な案件がありました。

経緯としては、入居者と連絡が取れないと緊急連絡先から管理会社へ連絡があり、警察立会いのもと部屋の中を確認したところ、玄関で入居者が亡くなっていました。

警察の見解では死後4ヶ月程度経過し恐らく病死で事件性はないとのこと。

そういった事情があり、売主様としては「売却金額を下げてでも売却したく、解約の場合でも白紙解約はできない」という意見と、買主様の「事故物件になったため解約したい、解約は白紙解除である」という双方の意見が対立する形となりました。

この問題の経緯とどういった対策が可能だったかも含めて見ていきたいと思います。

1:不動産価値はどうなるか? 告知事項の影響

この問題を複雑にしている点として、死亡が長期未発見であったことがあげられます。
不動産業界の考えでは室内で自然死があった場合に死後数日で発見となった場合は業法上での告知事項にあたりません。しかし、自然死であっても長期未発見の場合は告知事項にあたり、自然死の発生から3年間は告知が必要となります。

そういった室内に関しては、大幅なリフォームが必要になり、リフォーム後の家賃も告知事項がある事により現在と同じ家賃での募集が難しく、現在の家賃の半額から7割程度での募集になる事が想定されます。

家賃が下がれば利回りが下がるので物件価値も低下します。

2:双方の見解 問題の争点はどこか

この件に関して、買主側は、「入居者が死亡し長期未発見であり、物件の価値が下がったため契約は白紙解除となる」という意見です。

根拠として、契約書条文中の“買主は、本物件の損傷により契約の目的が達せられないときは、この契約を解除することができる。”
と記載があり、本物件の損傷には心理的瑕疵も含まれるから手付解除でもなく、白紙解除であるというものでした 。

対して売主側は、「買主のいう物件の損傷は物理的なものであり心理的瑕疵は含まれない、契約不適合責任免責の特約もあり解約であれば白紙解除ではなく手付解除である」という意見で、契約は成立しているため室内を原状回復後に引き渡すというスタンスでした。

3:最終結論 契約の行方

これまでの条件だけで見れば、実務上は金額を下げて契約に向かうことになるかと思いましたが、今回は融資特約による解除条項がありました。

融資特約とは、あらかじめ契約で決めた期日までに決めた金額で融資が承認されなければ自動的に契約が解除になるという内容です。

死亡があった事実が買主から銀行に伝わり、銀行の回答として「収益性の観点から賃料の評価を見直す必要があり、売買価格も下がるのであればどちらにせよ最終的な評価も変わる。」というもので、融資金額が伸びづらい状況になりました。

そもそもとして「ローンを進めるにあたり買主が融資を受けたいという意思が無ければ銀行としても進めることができない。」ということもあり、最終的に融資特約による解除となりました。

4:どんな対策が考えられたか?

契約を締結しても引き渡しまでになにが起こるか油断はできない売買契約ですが、契約後に入居者が長期未発見の死亡というケースは初めてで、困惑した事例となりました。

長期未発見となった理由は家賃の支払いが口座引き落としとなっており、口座にお金が残っていたため自動処理されていたので気が付かなかったのと、冬場であり匂いが外部に漏れづらかったことがあります。

契約中の高齢者の室内には異常を感知する見守りサービスの導入をすることで回避できた可能性もあり、物件管理の大切さを改めて感じた一件となりました。

皆様も売却を想定する・しないに関わらずこういったサービスを一度検討されるのも良いかと思います。