日本の住宅ローン市場が、今、大きな転換点を迎えています。
長らく「当たり前」とされてきた超低金利の時代が終わりを告げ、変動金利が上昇傾向に転じたのです。
これは、住宅ローンを現在利用している方々はもちろん、これからマイホームの購入を検討している方々にとっても、決して無視できない重要な変化です。
ここでは、最近の金利上昇の具体的な状況、それに伴う金融機関の動向、そして私たちの生活や不動産市場全体に与える影響について、分かりやすく解説していきます。

まず、今回の変動の核心である「店頭金利(基準金利)」の引き上げについてご説明します。店頭金利とは、各金融機関が住宅ローン金利を定める上での基準となる、いわば「定価」のようなものです。私たちが実際に支払う金利(実行金利)は、この店頭金利から、個々の条件に応じた「優遇幅」を差し引くことで決定されます。
この店頭金利は、長年にわたり主要銀行で「年2.475%」という水準が維持されてきました。しかし、この均衡がついに破られます。2024年10月、そして2025年4月と、二段階にわたって主要銀行は一斉に店頭金利を引き上げました。これにより、各行の新たな店頭金利は以下の水準となっています。
• 三菱UFJ銀行:年2.875%
• 三井住友銀行:年2.875%
• みずほ銀行:年2.625%
• 横浜銀行:年2.625%
• 千葉銀行:年2.875%
• 住信SBIネット銀行:年2.775%
• イオン銀行:年2.8%
このように、メガバンクから地方銀行、ネット銀行に至るまで、軒並み金利が上昇していることが分かります。これは、日本銀行の金融政策の転換など、日本の経済全体の大きな変化を背景とした動きであり、一過性のものではなく、今後の金利動向を見ていく上で極めて重要なシグナルと言えるでしょう。
店頭金利が上昇した一方で、実際の返済金利となる「実行金利」は、もう一つの要素である「金利優遇幅」によって大きく左右されます。この優遇幅を巡る金融機関の対応が、現在「二極化」しているのが大きな特徴です。
これまでの超低金利時代、金融機関は顧客獲得競争のために、この優遇幅を積極的に拡大してきました。例えば、「-2.1%」といった大幅な優遇を提供することで、店頭金利が2.475%であっても、実行金利を0.375%といった極めて低い水準に設定することが可能でした。
しかし、店頭金利が上昇した今、金融機関の対応は二つに分かれています。
一つは、金利上昇分を吸収するために優遇幅を縮小する金融機関です。銀行も企業であるため、金利上昇局面では収益を確保する必要があります。そのため、これまでのような大きな優遇を維持することが難しくなり、優遇幅を小さくする動きが出てきています。
もう一つは、競争力維持のために大きな優遇幅を維持しようとする金融機関です。金利上昇は、借り手にとって負担増に直結するため、少しでも低い金利を求める顧客のニーズはより強くなります。そうした顧客を逃さないために、体力のある金融機関や、住宅ローンを戦略的に重視するネット銀行などを中心に、従来の優遇幅を維持し、魅力的な実行金利を提示し続けようとする動きも見られます。
この「優遇幅の二極化」により、同じ店頭金利の銀行であっても、最終的な実行金利には大きな差が生まれる可能性があります。住宅ローンを選ぶ際には、店頭金利の数字だけでなく、どれだけの優遇が受けられるのかを慎重に比較検討することが、これまで以上に重要になっています。
金利優遇幅を維持し、より低い実行金利を提供する金融機関には、当然ながら住宅ローンの申し込みが殺到します。この需要の集中が、新たな問題を生み出しています。それは「審査の遅延」です。
多くの申し込みが特定の金融機関に集まることで、審査部門の処理能力が追いつかず、通常よりも審査に時間がかかるケースが増えています。不動産の売買契約では、融資の承認を一定の期日までに得ることが条件となる「ローン特約」が設けられているのが一般的です。審査の遅れによってこの期日に間に合わなくなると、最悪の場合、契約が白紙に戻ってしまう可能性もゼロではありません。
これから住宅ローンを組む方は、魅力的な金利の金融機関に人気が集中している現状を理解し、不動産会社とも相談の上、スケジュールに十分な余裕を持った資金計画を立てることが不可欠です。
今回の金利上昇がもたらす影響は、個人の返済額の問題にとどまりません。日本の住宅ローン利用者のうち、実に約7割が変動金利型を選択していると言われています。つまり、大多数の世帯が、今回の金利上昇による返済額増加のリスクに直面しているのです。
今後、さらに金利が上昇すれば、多くの家庭で月々の返済額が増え、家計への負担が重くなります。可処分所得が圧迫されることで、消費全体が冷え込むだけでなく、特に高額な買い物である不動産の購入意欲が減退する可能性があります。
住宅を買う人が減れば、需要と供給のバランスが崩れ、長期的には不動産価格に下落圧力がかかることも想定されます。特に、これまで価格が高騰してきた都市部などでは、その影響が顕著に現れるかもしれません。
このように、住宅ローンの金利動向は、個人のライフプランだけでなく、日本経済や不動産マーケット全体の先行きを左右する極めて重要な要素です。私たちは今、歴史的な金利の転換期に立っています。今後も各金融機関の金利設定や優遇戦略がどのように変化していくのか、継続的に情報を収集し、ご自身の状況に合わせた適切な判断をしていくことが求められます


